WHY

2015年に参加国の全会一致で承認されたSDGs、以来既に5年経ちますがその進捗は芳しくなく、2019年におこなわれたCOP25ではその懸念が表面化しました。地球にもう猶予はありません。特に地球温暖化問題は深刻で2030年までに効果的な手段を講じなければ取り返しがつかない状況になると言われています。

1980年初頭からビジネス、特にマーケティング領域で仕事をしてきた私たちは、顧客の消費を促進することで企業の成長を支援してきたのですが、その一方で資源の無駄も生み出すことに加担してきました。ここ数年はビジネス、マーケティングのあり方を変えたいとの思いで活動していますが、よりこの活動を多くの方と共創したいとの想いが強まりこの本を書くに至りました。

我々のパーパスは「ビジネス/マーケティングの変革で社会課題解決を達成し、持続可能な社会を創造し、心豊かで平和な社会を共創、維持すること」です。そのためのヒントブックを作りました。

書籍への想い 水野雅弘

25年ぶりにマーケティング書籍を出すことになった。

私が起業のきっかけとなったのは、20代前半放送作家の仕事をしている頃、当時のマスマーケティングによる大量の商品広告による経済損失や環境負荷を強く感じたからだ。

当時のTVやラジオなどの放送コマーシャルは、有名タレントを使った海外ロケなどが多く、商品価値以上の過剰な表現でプロモートしていることに無駄と矛盾を強く感じていた。そのコストは全て顧客が購入する価格に乗っているからだ。

さらに大きな疑問を抱いたのは、資源の無駄使いだった。

既に「成長の限界」が発表されていたにも関わらず、コンバージョンレートの低いマスマーケティングは大量の売れない在庫を生み、それはゴミと化し、想像を超える廃棄処分となっていた。同時に商品寿命をあえて短くする商品開発や始めから買い替えを前提とした”飽きさせるマーケティング”に納得のいかない経済成長をみていた。

そこで、私は英国で始まったマーケティングオートメーションの始まりとなるCRM(顧客リレーション管理システム)や米国のコールセンタービジネスに注目し、日本社会に提唱した。それを纏めたのが、第3のセールスパワー(コールセンターマーケティング入門)をダイアモンド社から出版した書籍だった。いわゆるマーケティング2.0をコンピュータの進化とリレーショナルデータベース、分析ツールの発展によって新たなステージに向かうきっかけを創出し、ダイレクトバンキングや保険ダイレクトなどさまざまなダイレクトビジネスを日本から生み出した。

やがて、CRM市場は大きく発展することになるが、顧客マーケティングは顧客中心主義を謳いながらも、効果的なマーケティングによって収益を拡大することであり、マーケティングコストの最適化は図れても環境負荷は増える一方だった。

私は2003年頃からその課題を解決する糸口として、社会的共感価値による企業の信頼資産を生み出すマーケティングとしてCSRに注目した。英国のNGOなどを招聘し、ステークホルダーエンゲージメントを提唱したが、利益、株主中心のマーケティング経営がもたらす消費社会はけっして良い方向に転換できなかった。企業は社会貢献に留まってしまったのである。

そのため、2006年に日本の消費者意識にサステナビリティを啓蒙するために立ち上げたのが、環境映像メディア”Green TV japan”である。

しかし、視聴分析を行うと残念ながら無関心層が多い日本の消費者に何も大きな変化を遂げることなく、人権問題、経済格差、地球環境は悪化するばかりだった。

やや諦めていた10年が経過した2015年。全世界の国々が”私たちの世界の変革を進める”SDGsが合意されたことによって、この書籍への想いとマーケティングの変革の重要性を改めて強く感じたのである。

2年前、共著の原さんとその想いを共有し執筆に向かうことになる。ここ数年はSDGsの講演やワークショップを数多く担当する中で、私自身が自己のpurposeを見つけ、その想いからこの書籍のメソッドの柱となるSDGs marketing matrixが生まれた。

今、世界は予測困難な社会とされ、気候変動リスクなど複雑な課題や問題を抱えながらも、20世紀型の化石燃料に依存する脆弱性の高い経済社会が続いているが、その脆弱性を可視化するかのようにpandemicが起きてしまった。成長を遂げてきたグローバリゼーションが分断されたのである。

しかし、行動することによって明るい未来に向けた希望もある。

私たちは、このpandemicを体験し、10年進化して変革を成し遂げなくてなならなかったことが、

3年で劇的に変わることだろう。

今こそ、これまでのビジネスの成長の視点を見直し、マーケティングを豊かな社会に転換するメソッドとしてアップデイトできるとても良い機会だと考える。

次世代のマーケッターを生み出すきっかけとして

是非、多くの方にご一読頂きたい。

マーケティング2.0を訴求して25年。いよいよマーケティング4.0を社会に浸透する世界が始まる

きっかけになって欲しいと願う。

書籍への想い 原 裕

1961年に生まれ、1984年に社会人として最初のキャリアをアメックスでスタートさせた私は、その後J.W.トンプソン、メンバーズと三社を経験してきたが、いづれも営業・マーケティングに従事して多くの経験を積むことができた。本書でも取り上げたマーケティング3.0の流れを体験できる貴重な経験をすることができた。また、リアル・バブル、神戸震災、ITバブル、リーマンショック、東北震災、そしてコロナウィルスという、経済環境の変化、自然災害も経験し、今に至っている。

外資でマーケティングを、日本のベンチャーでITを学び・実践し、多くの先輩や同僚、クライアント、ビジネス・パートナーとの出会いでマーケティングの素晴らしさや、楽しさ、苦しさを学び、絶えず変化し続けることの重要性も学んだ。

この7年は、それらの経験やスキルを活用して社会課題を「マーケティング」で解決し、ビジネス成果と社会課題解決成果を生み出すことに専念してきた。なぜか?その答えが本書になる。ひとりのマーケターとして消費を刺激し、促進する活動に従事してきたが、東北震災での圧倒的な無力感の中、メンバーズ役員で自社のあり方を考え直した時に、社会課題を解決できない企業に存在意義はないということに行き着いた。その後3ヶ月で仙台にオフィスを作り、3人からスタート、いつの日か仙台をデジタル・マーケティングの先進地方にするんだとの意志ではじめ、今では200人以上のスタッフが働いている。地域の雇用を産むのと同時に我々のビジネスの要にもなっている。そして、デジタル・マーケティングであるにもかかわらず、クライアントに社会課題解決とビジネス成果を掛け合わせた提案を行い、少ないながらもいくつかの事例ができ、本書でも紹介させていただいている。不思議なものでこの考え方を経営のど真ん中(=パーパス)に据えて依頼、それまでの綱渡りのような業績だったのが、安定して成果を出し続けられるようになり、お陰で東証1部に場替えできるようになった。

このアプローチは「短期的な」ROIが再重要視される(デジタル)マーケティングのなかではなかなか受け入れにくく、そもそもCSRとの違いすら理解いただけない場合が多かったが、SDGsの登場以来徐々に共感をいただけるようになってきた。しかし、より一層このアプローチを広げていきたいとの想いは募るばかりで、そんな時共著水野さんとの話のきっかけで書籍を作ろうということになった。

共著の水野さんは私の師匠であり、ここ数年大変に刺激を頂いている。水野さんには私が責任者を勤めていた子会社のエンゲージメント・ファースト社(2020年4月よりメンバーズのCSV担当部署に)の取締役をお願いしていた。定期的にこの課題について議論させていただき、世代的にも考え方も、そして音楽の嗜好(笑)が一致しており、ビートルズのジョン&ポールのように一緒に曲(=書籍)を書こうということになった。そういう二人の想いを込めて、多くの方に読んでいただけるよう、なるべくわかりやすく、事例を多く掲載するようにこころがけた。編集を担当してくれた岡氏がいなければ成り立たなかったと思う。

プロジェクト名は「イマジン」、言うまでもなくジョン・レノンの名曲であり、二人がこよなく愛する曲で、この山積する社会課題をマーケティングで解決することは簡単ではなく、むしろかなりの難易度であるが、その先の世界を想像し、創造しようという意志を込めてプロジェクト名に頂いた。

そんな想いが少しでも多くのマーケター、ビジネスパーソン、そしてこれからビジネスを行う若者に読んでいただき、一歩も二歩も踏み出していただければ幸いです。